2009年9月9日水曜日

ノーベル賞詩人ミストゥラルの書簡集が話題に

寄稿     伊高浩昭(ジャーナリスト)

 チリの誇るノーベル文学賞詩人ガブリエーラ・ミストゥラル(1889―1957。1945年受賞)が、晩年に秘書を務めた米国人女性ドリス・ダナに宛てた書簡をまとめた書簡集『放浪娘(ニーニャ・エランテ)』が2009年8月30日、サンティアゴで刊行され、大きな話題になっている。1948年から1957年までの期間に書かれた書簡250通から、2人の間に愛情関係が存在していたことが浮き彫りになったからだ。
 現地からの報道によると、編集者のペドロ・セヘレス(チリ国立図書館作家資料部長)は、「私は、人物が等身大に見られるの好む。ミストゥラルの実像に迫ろうとしたまでだ」と刊行の理由を語っている。
 ダナは、ミストゥラルから遺言執行人に指定され、著作権や資料を管理していたが、2006年、米フロリダ州で86歳で死去した。その後、ダナの姪が、ダナが管理していたミストゥラル関係の膨大な資料をすべてチリ政府に寄贈した。それが国立図書館で分類整理され、書簡集発行につながったのだ。
 ミストゥラル作品の特徴の一つは、揺籃期、男性への恋愛心、母性が明確に描かれていることだが、書簡集で「同性愛」的性向が明らかになった。チリのメルクリオ紙の報道によると、「私は風雨に身をさらす。その風雨は、私に代わってあなたを抱擁し接吻する」、「あなたを私のものにするために私がしたことは、魂と肉体の激しい愛でした」などの記述がある。ミストゥラルはダナが旅行好きのため、彼女を「放浪娘」と呼んでいたという。ミストゥラルは書簡の終わりに「あなたのガブリエーラ」と署名することがあるが、セヘレスは、「あなたの」を二人称代名詞所有格女性形の「トゥヤ」でなく、男性形の「トゥヨ」としている点を指摘している。
 セヘレスは次いで、メキシコ人女性秘書パルマ・ギジェンに宛てたミストゥラルの書簡集を刊行する。国立図書館は、ミストゥラルの資料4万点をウェブサイトに載せることにしているという。