2011年4月18日月曜日

波路はるかに~伊高先生の船上レポート(22)最終回

 PBオセアニック号は4月15日正午石垣島沖、16日正午奄美大島沖、17日正午四国沖を通過し、現在は紀伊半島の北東端沖をかすめつつある。1月23日に始まったピースボートの世界一周航海も86日目の明日、横浜港に帰着して終わる。欧州の航海者たちが16世紀に経験した世界一周航海を、私は500年後に果たしたことになる。今航海は、私の世界観を補強する貴重で具体的な材料になった。

 ここで久々にラ米情勢を2題語りたい。一つは4月16日、キューバ共産党第6回大会がハバナで開かれたことだ。その意義については、『世界』(岩波書店)4月号に書いたが、市場制度を導入して経済改革をし、社会主義体制の存命を図ることだ。16日は、フィデル・カストロが社会主義革命宣言をした日の50周年に当たる。

 開会演説で、ラウール・カストロ共産党第2書記(国家評議会議長)は、長文の中央委員会報告を行なった。冒頭で、「我々は米国の鼻先で社会主義革命をやった。労農諸君、これは貧者の、貧者とともにある、貧者のための社会主義革命であり民主主義革命だ」というフィデルの50年前の発言を掲げて、「その革命を活性化するのが大会の目的だ」と強調した。19日まで続く党大会の様子は、5月の講座で細かく話したい。

 もう一つは、4月10日に実施されたペルー大統領選挙についてだ。民族主義者の元軍人オジャンタ・ウマーラ(48)=ペルー勝利党=が得票率31%で一位、アルベルト・フジモリ元大統領の長女で国会議員のケイコ・フジモリ(35)=2011年の力党=が同23%で2位になり、2人が6月5日実施の決選投票に臨むことになった。

 トレード前政権で経済相と首相を経験した米国よりのペドロ・クチンスキ(大転換のための同盟)18%、前大統領アレハンドロ・トレード(ペルー可能党)15%、元リマ市長ルイス・カスタニェーダ(国民連帯党)9%、その他6人の泡沫的候補が敗れた。クチンスキ、トレード、カスタニェーダの新自由主義経済信奉者3人の敗北は、ペルーの貧困層が「野蛮な資本主義(新自由主義)」に強い不満を抱き続けていることを示した。新自由主義路線を継承したガルシア現政権への強烈な反対の意思表示でもある。

 ウマーラとフジモリは、いずれもアンデス高地など貧困率の高い地方部で票を伸ばした。ウマーラは前回大統領選挙でも得票1位になりながら、「急進性」を警戒されて、2位のアラン・ガルシア現大統領に決選で勝利を持っていかれた。ペルーの保守、有産、親米層がこぞってガルシア支持に回ったからだ。ウマーラは「チャベス(ベネズエラ大統領)寄り」と悪宣伝されたのが響いた。ウマーラはこの敗退に学び、決選に向け多数派工作のため柔軟な交渉姿勢を見せている。

 ケイコも同じだ。得票3位以下の3候補の票をより多く獲得しなければならないからだ。ケイコは、「独裁者にして犯罪者の父大統領の娘」、「大統領になるのは服役中の父親を恩赦するため」などの攻撃をかわして2位に滑り込んだ。ウマーラオ同様、都市の中産層を引き付けるのに躍起だ。

 念願のノーベル賞を去年やっとものにした作家マリア・バルガスジョサが代弁者の役割を果たしているペルーの保守・右翼・有産層は、今選挙で新自由主義を否定され、最大の敗北者になった。候補者を一本化できなかったのも敗因だろう。決選投票は予断を許さない。決選までの推移を見守っていこう。

 では受講生のみなさん、5月7日に会いましょう。

2011年4月17日、紀伊半島沖航行中のピースボート・オセアニック号船上にて、
伊高浩昭