伊高浩昭(ジャーナリスト)
ベネズエラのウーゴ・チャベス大統領によって1月11日、〈重態説〉が流されたキューバ革命の精神的指導者フィデル・カストロ共産党第1書記(82歳)は21日、キューバを訪問していたアルゼンチンのクリスティーナ・フェルナンデス大統領と40分間会談し、自ら〈重態説〉を否定した。
フィデルは翌22日、「省察」と題したコラムシリーズを38日ぶりに再開し、20日就任したバラク・オバマ米大統領について、「1959年1月のキューバ革命勝利以来11人目の米大統領が就任した。オバマの誠実さは疑いないが、過去の大統領たちの域を出ていない」と述べて、オバマとヒラリー・クリントン国務長官が決めるキューバ政策に警戒心を示した。
だが、このコラムの重要性は後段にある。フィデルは、「省察」を久々に書いたのを踏まえて、「〈省察〉執筆を減らすことにした。党と政府の同志たちを煩わせないようにするためだ。私は今は元気だが、同志たちの誰も今後、〈省察〉や私の重態・死に影響されてはならない」と書いているのだ。
さらに「半世紀にわたって私が行なった演説や書いた論文などを点検している。私は情報を受け取り情勢について静かに思考する特権を長い間享受してきた。だが、オバマの任期4年が終わるまでこの特権を享受し続けることはないと思う」と記している。
フィデルは明らかに〈遠くない死〉を覚悟している。「重態」という言葉を使ったのも、チャベスが指摘したとおり、つい最近まで容態が悪化していたからかもしれない。実権を握る実弟ラウール・カストロ国家評議会議長(元首兼首相、77歳)もフィデルも、すでに実質的に〈フィデル後〉の時代に入っている。今回の〈重態説〉騒ぎは、期せずしてフィデルの本音を引き出すのに貢献することになった。